学会員リレーエッセイ イベント雑感 第3回

「観光立国」実現のためのイベント、 「世界温泉会議」の開催を!

永井 弘  日経BP社編集委員室主任編集委員

学会員が、イベントまたはイベント学に関して日々思うことを提言していく『イベント雑感』。第3回目の今回は、イベント学会会員で、(株)日経BP社・編集委員室主任編集委員の永井弘氏より、「観光立国を実現する、イベントの開催を」と提言をいただきました――

EU(欧州連合)に今年5月、加盟したハンガリーを訪れる機会がありました。ハンガリーは観光収入がGDP(国内総生産)の約1割に相当するというバリバリの「観光立国」です。海外からの観光客は年間1500万人を数え、これは堂々の世界第12位です(ちなみに、日本は第35位)。
ご存知のように、日本でも小泉首相が自ら陣頭に立つ「観光立国」政府プロジェクトが進行中です。これまで、観光=遊びと位置づけられていた観光業を、国の基幹産業に格上げしようという政策です。具体的には、2010年までに外国人旅行者を1000万人に倍増する目標を掲げ、プロジェクトを推進しています。咋年4月に本格スタートした、官民挙げての「ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)」はその一環です。

「日本の観光業には産業横断的に何かを生み出そうという発想が欠けており、その結果、国際競争力が伴ってこなかった」と指摘する向きは少なくありません。そうした弊害を打破しようという動きが、中央官庁や、地方自治体、観光関連企業・団体などが大同団結して進めている「観光立国」プロジェクトであり、 VJCなのです。  とはいえ、「観光立国」の実現は、「日暮れて道遠し」との観が否めません。

昨年12月東京で開催された「ツーリズムサミット2003」の主催者あいさつの中で、奥田碩・日本経団連会長がこう語りました。 「日本を訪れる外国人旅行者524万人と、日本人の海外旅行者1652万人とのギャップには愕然(がくぜん)とさせられる。我々は『観光立国』入りを果たしている国々から成功例を学ばなければならない」  

私は、「観光立国」入りを果たしているハンガリーにおける観光政策を現地で取材する機会を得たわけです。日本が「観光立国」を実現するためのヒントをつかむために!  そのハンガリーにはこんな諺があります。「どこでも井戸を掘れば、遅かれ早かれ温泉が湧き出る」――。実際、国土が日本の4分の1ほどのハンガリーには 1289カ所にも上る源泉があります。しかも、ハンガリーの温泉文化の起源は、古代ローマ人がローマ式の公衆浴場を建設した2000年ほど前まで遡ります。この地を16世紀から17世紀にかけて支配したオスマントルコ帝国は、トルコ式の温泉施設を次々と建設しました。地質学的な恩恵、そして、世界に冠たるお風呂好きの二大帝国による支配が「ハンガリー=温泉大国」を生み出したのです。

現在、ハンガリー政府は、その温泉という資源を最大限生かして海外から観光客を呼び込むことに成功しています。ハンガリー政府の取っている注目すべき温泉政策は(1)全国の温泉施設に対する公的評価システムの導入:例えて言えば、フランスのホテル公的格付けにおいて3ツ星ホテルがレストランを備えることで4ツ星となるような評価(2)温泉施設に対する資金面での支援:国と民間が温泉施設の開発資金を折半する制度(3)観光PRという情報面での積極策:@ 世界22カ国に観光PR事務所を設置A海外で開催される旅行関連のイベント(展示会・見本市)に国内の民間企業が参加する場合、費用の75%を政府が負担する制度。

日本も「観光立国」の実現を目指すなら、ハンガリーと同じく、温泉を前面に打ち出した海外旅行客の誘致を積極的に行えばいいと痛感しました。何しろ、日本は3000カ所を超える温泉を有する温泉大国なのですから。もちろん数だけではありません。泉質の豊富さに加え、日本独自の温泉旅館は外国人にとっても魅力的です。温泉は日本におけるNo.1の観光資源であると言っても過言ではありません。

しかしながら、ハンガリー政府が行っている上記(1)(2)の政策は現実には難しいでしょう。やはり(3)のPRという情報政策が現実的で、効果的といえます。というのも、日本=温泉大国とのイメージは海外にあまり伝わっていないからです。  ハンガリーでは、経済省と健康省が共催するイベント「第2回健康旅行博覧会」(ブダペスト)にも参加しました。ヨーロッパ諸国を中心に、外国人ジャーナリストが大挙して取材に来ていました。彼ら海外のジャーナリストは、予想以上に日本に関する深い知識をもっていましたが、それでも日本が温泉大国であることを知っている者はほとんどいませんでした。「健康旅行博覧会」がハンガリーの「温泉」に焦点を合わせたイベントであることを考えると、海外から取材に来たジャーナリストは「温泉」に高い関心を持っているはずですが……。

「宝の持ち腐れ」という諺もあります。日本=温泉大国を世界に向けてPRしましょう!そのために、まずは海外のジャーナリストと旅行会社に向けて情報を発信しましょう。インターネットも効果的でしょうが、やはり、実際のイベントがずしりと効くと思います。ということで、海外のジャーナリストと旅行会社の関係者を招く「世界温泉会議」(もちろん狙いは日本=温泉大国のPR)の日本開催を、この場を借りて提案する次第です 。

折しも、日本の温泉は入浴剤問題や水道水使用問題などでイメージの低下を招いています。「世界温泉会議」という一大イベントは、失墜したイメージを回復させることにも一役買うでしょう。ちなみに、温泉とイベントの関係について言えば、個別の温泉地が行う個性豊かな地域密着型のイベントが集客につながっています。海外からの集客を考えた場合は、日本独自の温泉旅館と伝統的なイベントとの融合が効果的です。

いずれにしても、「観光立国」がうたわれる今こそ、最大の観光資源である温泉とPR効果の大きいイベントを有機的に結び付けたいところです。
■Profile ■
永井 弘(ながい・ひろし)
慶応義塾大学大学院工学科修士課程修了。51歳。日経リゾート副編集長、日経イベント編集長などを経て、現在、日経BP社編集委員室主任編集委員。専門分野はホテル&リゾート、イベント。イベント学会会員。著書に「戦後観光開発史」(第24回「交通図書賞」受賞)、「東京年輪論」など。

 


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